なぜ虫歯になるの?意外と知らない虫歯のメカニズム
こんにちは。前回のブログでお話しした通り、子供から「なんで虫歯になるの?」と聞かれたことがきっかけで、今日は虫歯について詳しくお話ししてみたいと思います。
お口の中に住む細菌たち
私たちのお口の中には、実に300〜700種類もの細菌が住んでいます。その数は1,000億個以上とも言われ、これは想像を超える数です。これらの細菌は生まれてすぐに住み着き、一生にわたって共存していく存在です。
この中で虫歯の主な原因となるのが「ミュータンス菌」という細菌です。興味深いことに、生まれたばかりの赤ちゃんのお口にはこの菌はいません。主に家族からの接触を通じて感染し、お口の中に定着していくのです。
虫歯発生のメカニズム
チョコレートやジュースなどの糖分を摂取すると、ミュータンス菌がこれを栄養源として取り込み、代謝の過程で酸を産生します。この酸のpHは4.5程度まで下がり、お口の中が強い酸性状態になります。
歯の表面を覆うエナメル質は人体で最も硬い組織ですが、pH5.5以下の酸性環境では化学的に溶解し始めます。この現象を「脱灰」と呼びます。まるで酸に卵の殻を漬けると溶ける実験のように、歯のミネラル成分が少しずつ溶け出していくのです。
唾液による防御機能「再石灰化」
幸い、私たちの体には優れた防御システムが備わっています。それが唾液による「再石灰化」です。
唾液には以下のような重要な働きがあります:
緩衝作用:酸性に傾いたお口の中を中性に戻す
洗浄作用:細菌や食べ物の残りかすを洗い流す
再石灰化作用:溶け出したミネラルを歯に戻し、初期の虫歯を修復する
この脱灰と再石灰化のバランスが、虫歯になるかならないかの分かれ道となります。バランスが取れていれば虫歯は進行せず、脱灰が優勢になると虫歯が発生・進行していくのです。
個人差が生まれる理由
「同じように甘いものを食べているのに、虫歯になりやすい人とならない人がいるのはなぜ?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。これには科学的な理由があります。
唾液の分泌量と質 唾液の分泌量は個人差が大きく、1日500ml〜1,500mlと3倍もの差があります。また、唾液の酸を中和する力(緩衝能)や、含まれるミネラルの濃度も人それぞれです。
歯の形態 特に奥歯の溝の深さや形は遺伝的に決まっており、複雑な形をしている方ほど細菌が停滞しやすく、虫歯のリスクが高くなります。
口腔内細菌叢の違い ミュータンス菌の数や活性度、さらには虫歯菌の働きを抑制する善玉菌の存在も個人差があります。
炭酸飲料とスポーツドリンクの違い
最初にお話しした子供の質問「炭酸飲料もスポーツドリンクも甘いけど、どう違うの?」にお答えしましょう。
どちらも糖分を含んでいるため、虫歯のリスクは同様にあります。しかし、使用場面で考えると:
炭酸飲料
糖分濃度が高い(10〜12%程度)
炭酸自体も歯のエナメル質を軟化させる
日常的な水分補給には適さない
味覚的に「もっと飲みたい」と感じやすい
スポーツドリンク
糖分濃度は4〜6%程度
運動時に失われる電解質を補給できる
運動による脱水時には体に必要
ただし、運動していない時の摂取は糖分過多になる
つまり、どちらも歯の健康を考えると頻繁な摂取は避けたいものですが、スポーツドリンクは運動時の体調管理という明確な目的があるということですね。
効果的な虫歯予防のポイント
虫歯のメカニズムを理解すると、より効果的な予防方法が見えてきます。
1. 食事の取り方を工夫する 重要なのは糖分の総量よりも「摂取頻度」です。だらだらと長時間甘いものを口にしていると、お口の中が酸性状態に保たれ、再石灰化の時間が確保できません。間食の時間を決めて、メリハリのある食生活を心がけましょう。
2. 適切な口腔清掃 食後の歯磨きで細菌の栄養源となる糖分を除去することが大切です。特に就寝前の歯磨きは重要で、睡眠中は唾液分泌が減少するため、細菌が活動しやすい環境になります。
3. フッ素の活用 フッ素には歯質を強化する作用と、細菌の活動を抑制する作用があります。フッ素入り歯磨剤の使用や、定期的なフッ素塗布が効果的です。
さいごに
虫歯は「甘いものを食べたから」という単純な理由だけでできるわけではありません。でも、仕組みが分かれば予防もできます。
完全に甘いものを禁止する必要はありません。上手に付き合っていけば、歯の健康を守りながら美味しいものも楽しめますよ。
次回は「正しい歯磨きの方法」について書いてみようと思います。意外と知らないコツがあるかもしれません。
何かご質問があれば、診療の時にお気軽にお声かけくださいね。